ノマド探求

二次元移住準備記

移住先に求めること。

日本を離れて海外に移住しようと考えたのは,軽い気持ちからだ。仕事はしているけど一ヶ月後に辞めても迷惑はかからないだろうし,養わなくてはいけない気丈な嫁さんや可愛い娘などもいない。移住することは,家を引き払って長い旅行に行くことと変わらないことなのだ。日本に住んで生活する理由が見当たらない。しかし,日本が嫌いだから海外に住みたいと思ったわけではない。日本にいられないから海外に逃げ出すわけでもない。好きか嫌いかの二者択一でなくても,日本は大好きだ。移住後に悲惨な目に遭うリスクを考えたことはあるが,悲惨な目に遭った時は,そこは移住に適さない場所というだけだ。嫌になったなら他の場所に移るか,日本に帰ればいい。日本に戻るという選択肢は,当然持ち続ける。

忽然といなくなっても誰からも非難は受けないだろうし,自責の念に苛まされることもないだろう。捨てるものがあまりないということは大きい。今まで生きてきた社会を捨てることになるが,それはちっぽけなものだ。社会が捨てられたと思うような貢献もしていない。スマホから自分の電話番号が消えても,親以外で誰か気にしてくれる人はいるのだろうか。幽霊とまではいかないが,存在感は相当に薄いはずだ。

日本を離れられれば満足かといえば,そんなことはない。移住先の条件はいくつかあって,その一つは他人が同情するような境遇であっても楽しく生きていける所に住み,そこで働き,遊んで,そして死ねることだ。この話をすると,そんな所があるのかよ,と多少難詰のこもった嘲りを向ける人もいるが,きちんとある。正確にはかつて存在していた。二十代後半にアルバイトをしながら生活していた頃が,そんな感じの所だった。時給1000円未満で適当に働く,世間一般からすれば社会不適応者として扱われていたが,とにかく楽しかった。それまでは半年も経つと一緒に働く人や職場に飽きてアルバイトを辞めてしまっていたが,そこには奇跡的に二年近く勤めていた。辞めた理由も職場が嫌になったからではなく,旅行に行きたいからという相変わらず世の中をなめた理由で辞めてしまったのだが。旅行から戻ってしばらくすると,一緒に働いていた同僚も一人辞め二人辞め,ついにはその会社自体が他の会社に買収されてまともな会社になってしまい,理想の職場はこの世から消滅してしまった。しかし,今でもその時のことを思い出すと,この世から逃げたす前にまだ希望があるはずだと考えるのだ。