ノマド探求

二次元移住準備記

今が一番幸せかもしれない。

三十代後半までプー太郎だった。養う家族も遊びに行く彼女もいないし、物欲もほとんどなかったので、金がなくても別に困りはしなかった。ただ、ロクな死に方をしないことは、覚悟していた。酔っ払ったまま側溝に嵌まり、そのまま溺れ死ぬ運命をアルバイトで糊口を凌ぎながら待っていた。一度ぐらいはまともに働こうと一念発起し、IT業界で仕事を探し始めた頃には、中年と呼ばれる歳になっていた。学歴も職歴もなかったけど、意外と簡単に契約社員として安い給料で雇われ、システム監視の仕事に就くことができた。

昔から貧乏クジを引くことは多い。己の間の悪さを呪うことは、今でも度々ある。ただ、それを補うぐらい職場にだけは恵まれている。その仕事を辞めた後も連絡を取り続ける同僚が、どの職場でも一人か二人はいた。生理的に合わない奴や嫌な奴はもちろんどの職場にもいたが、悪い奴は不思議といなかった。前の職場でも、皆そこそこ仲が良く、同じシフトに入っていた同僚とは日勤の後に良く飲みに行っていたし、仕事もワイワイと楽しくやっていた。その恵まれた職場を離れてまで運用の仕事をしたかった理由は、特にない。夢を見たくて、ここではないどこかに行けと自分に発破をかけていただけだ。念願が叶い、運用チームに異動したが、職場に馴れるのに精一杯で感慨が湧いてこない。

一途に働き続けてきた同世代と比べれば、稼ぐお金は少ない。それでも十分満足できる。今が人生で、一番お金を稼げて幸せだ。お金のない時は心の余裕もなくなり、焦ってばかりいた。そこそこ余裕を持って生活ができると、視野が広くなる。お金だけが全てではないが、お金で解決できることは案外多いのだ。恐らくこの先のどこかで、食いっぱぐれる時が必ず来るだろう。その時に何をして生きていくのか、ちょっとずつ準備をする。