ノマド探求

二次元移住準備記

ニート・アドベンチャー・ガイドブック

その昔、十年ぐらい前、旅行のガイドブックを作ろうと思った時がある。当時、長年勤めていたアルバイト先を辞め、ブラブラしながら暇と将来への不安を持て余していた。しばらくは働かず、気儘なニート生活を満喫できる蓄えはあったが、いずれ蓄えは底を突く。すでに職歴がないまま三十代の半ばを過ぎており、アルバイト以外の働き口は容易に見つからず、気が重かった。不運に不運が重なった末に己の境遇を嘆くことができれば、まだ慰めにはなっただろう。しかし、全ては人生設計をせずに覚悟を先送りしてきたツケが溜まった結果だった。

悶々と過ごしても、折角のニート生活が台無しになってしまう。ただ、いずれ訪れるXデーが頭から離れず、何をしても楽しくなかった。そこで金になるような暇潰しをすれば、少しは気が紛れるだろうと考えた。色々と考えた末、ニートが海外旅行をしようと思い立った時にまず最初に読む本をコンセプトに、ニート・アドベンチャー・ガイドブックという本を書くことにした。本を書くことが目的だったので、初稿を書き上げた後は出版社に持ち込み、誰にも相手にされなければ同人誌で売るかなぐらいの見通しだった。実際は、Webサイトで企画の募集をしていた零細出版社一社に企画書を送っただけで、それ以降、その話は進展しなかった。

旅行のガイドブックと言っても、どこか特定の国や地域を紹介する類の本ではない。ダイビングや景勝地巡り、ご当地グルメの紹介など、何か一つのアクティビティに焦点を当てた本でもない。端的に言えば、楽しく旅行の準備をするための本だ。地球の歩き方などのガイドブックには、旅行先の情報以外にも旅行前の準備についての情報が、おまけ程度でも必ず載っている。パスポートの取得や出入国する際の注意点、空港の見取り図、簡単な現地語の話し方などの、お役立ち情報だ。この情報を主目的に読む人はいないだろうし、読み飛ばす人も多いだろう。しかし、この旅行の準備について書かれたページを読むと、あれこれと旅行先での想像が膨らんで面白い。

旅行の準備は楽しい。旅行先では少なからず嫌な思いをするし、一人で旅行をすると寂しい思いもする。しかし、日本で旅行の準備をしている間は、胸と股間を膨らませる期待が、そんな杞憂や不安を払拭する。面倒臭いパスポートの更新作業ですら、ウキウキしてしまう。金と時間をかけて長期旅行をする際は、旅行先での予定は現地に着いてから決めても問題ない。予定を立てる時間は飛行機やバスの中、旅行先に着いてからの楽しみに取っておき、日本ではたっぷりと旅行の準備に時間を充てたい。この準備をもっと楽しく進めるために、旅行の準備だけに焦点を当てたガイドブックがあればいいなと、今でも思っている。