ノマド探求

二次元移住準備記

ニートになったら旅に出る。

システム監視の仕事は24時間365日の輪番制のため、職場で一斉に夏休みを取ることはない。輪番者全員でシフトを調整しながら、一週間程度の夏休みを順繰りに取る。すでに夏休みの日程は私のシフトに反映された。今の職場で初めて取る長期休暇で、どこに旅行に行こうか色々と思案している。当然、夏休みが終わればまた仕事が始まる。休み明けに仕事が控えていると、旅行中も気が重い。しかし幸いなことに、今の職場は人間関係が良好なので、仕事を確保したまま旅行に行ける安心感が大きい。

仕事を辞めて旅行に行った時は、旅行中に幾度となく無職であることの不安に苛まれた。旅行から帰ったら、いずれは働き始めなくてはならない。仕事探しは億劫だし、就いた仕事がクソだったらどうしようとか、人間関係が最悪な職場だったら嫌だなとか、そもそも再び仕事に就けるのだろうかと、渦巻く不安が旅情に滲んでくるのだ。仕事を辞める前に当面の生活費を確保し、仕事探しに有利な検定を取っても、この不安を完全に払拭することは難しかった。

またニートに戻れるのなら、長い旅行に出ようと思う。旅行前の気兼ねや旅行後の心配もせず、のんびりと贅沢な自由を満喫したい。ニートだった時は働く意欲も勉強する意欲もなかったが、親の庇護の元で気儘に本を読んだり映画を観たり、文化的享楽を満喫していた。しかし、なぜか旅行に行くのを忘れてしまった。そもそも思いつかなかったのかもしれない。祖母からもらった二百円を握りしめ、散歩がてらに近所のゲーセンで遊ぶのが日課だった当時の私には、旅行費用は天文学的な金額であっただろう。飛行機代を入れても一、二ヶ月分の旅行費用ぐらいは工面してくれる親だった。しかし、ニートである現状に開き直っていたわでもなく、ねだるのが後ろめたかったのかもしれない。

今はもう親の財力と庇護は期待できず、自力でニートに戻るしかない。それこそ、天文学的な貯金が必要になる。昔ニートだった時に旅行に行かなかったことが悔やまれる。

英語以外の外国語を勉強しようと思う。

このところ勃然と海外移住への意欲が盛り返してきた。私にとって海外移住は、自分探しや一攫千金の機会を狙ってではなく、現実逃避の手段となっている。

日常生活が倦んできた時、ここではないどこかを夢想して鬱屈した気分を紛らわせるのは、私に限ったことではない。何も海外移住だけではなく、転職や起業、それから自殺と、思いつくだけでも様々な現実逃避の手段はある。夢は陰鬱な日常をひと時の間忘れさせてくれるが、いつかは醒めてしまう。零か一かの世界では夢から醒めれば、そこは元の現実だ。ただ現実を忘れていただけであって、ここではないどこかにいるわけではない。そこで夢を目標に変えて忘却から逃避へと手段を移し、夢の延命を試みる。資格や検定の勉強は割合良くある現実逃避の手段だ。仕事が終わった後に喫茶店で勉強している人の半数は、意識するにせよ無意識のうちにせよ、差し迫って勉強をする必要のない人たちであることは、参考書やパソコンを前にスマホをイジり続けていることからも分かる。そもそも資格や検定取得の期限を切られている人は、喫茶店では勉強をしないだろう。また、何かをする準備にたいそうな時間をかけて現状肯定を図ることも、ニートや引きこもりの現実逃避の常套テクニックだ。その準備をしている限り、半永久的に醒めない白昼夢を見続けることができる。ドライアイスに遺体を埋めるように、準備に没頭することで夢が叶う可能性を当分は留保することができるのだ。

今の派遣の仕事では夢が見れず、仕事自体にも飽きてきた。次の仕事を探そうと準備を進めているが、なかなか綺麗に辞めれそうもない。しばし嫌な現実から逃避するため、海外移住の準備に時間を多めに割き始めた。少し前から海外移住の準備として、海外在住者のコミュニティに参加しようと考えているが、どこにどんなコミュニティが存在するのかすら分からない。仕事を介して知人の知人とかと飲みに行くような緩い繋がりは、表に出てこないものだ。趣味を介してコミュニティに参加しようと算段するも、肝心の趣味がない。海外の求人案件を眺めたり、海外在住者のブログを読むだけでは、物足りない。そこで、Youtubeで移住候補地の現地語を勉強することにした。現実逃避が目的なので、英語の勉強のように苦行になると意味がない。あくまで甘いお香で眠りに落ちるように、Youtubeタイ語の柔らかな響きに酔うのが、ここ最近の時間の潰し方になっている。

予想通り、かつ目的達成、そして期待以下。

先月末に受けたTOEICの結果が返ってきた。スコアはリスニングパートが425点、リーディングパートは410点の合計835点だった。テストを受けた感触で、およその結果は予測できていた。テストを受けた目的は、履歴書に書けるTOEICのスコアを有効期限内に更新するためだ。800点台を維持できたので、ひとまず目的は達成できた。しかし、期待は裏切られた。試試験対策は一ヶ月半弱しか取れず、験対策は万全ではなかったが、英語の勉強をしていなかったわけではない。この一年間はオンライン英会話のレッスンを飲み会がある日を除いて、ほぼ毎日受けていた。英語に触れていた時間は英語学習歴二十年の中でも一番多いと思う。あわよくば860点、900点に届いちゃったら嬉しいかもと、席が好きな人の隣になっただけで結婚まで考えてしまう中学生のような淡い期待があったことは事実だ。そして、厳しい現実を前に初恋に似た期待は、今回も砕け散った。そんなトキメキは、砂場の砂の数と同じくらいに多いことも事実だが。

今回は、途中で諦めずに最後までテストに集中することができた。エロ動画に二時間集中できても、TOEICのテストに二時間集中するのは意外に難しい。これはTOEICを受けたことがある、多くの人に共通する感想だと思う。リスニング問題では、全く聴き取れなかった設問も消去法で正答率が上がるよう、明らかに間違っている選択肢を除く意欲は持続できたし、リーディング問題を何とか全問解き切った時点で800点台が堅いことは予想できた。しかし、リスニングのパート2で聴き取れない設問が三分の一以上あり、リーディング問題を見返す時間がなかったことで、900点は届かないだろうし860点は完全に運任せであることも予想がついた。今回のテスト結果は二年半前に取った最高得点と同じだ。英語学習を始めた二十年前から、大器晩成型だと自分を信じて勉強を続けているけど、なかなかブレイクスルーしない。