ノマド探求

海外移住準備記

靴のサイズを間違えた。

六月に日帰り登山に挑戦するため、少し前にAmazonマーケットプレイスで登山靴を買った。キャラバンのC1 02Sという、日本人に特徴的な足の形に合わせて作られた、登山入門者用の登山靴だ。そこそこ登山経験がある人の要求にも応えられるようで、Amazonのレビューでも評価は高い。サロモンやメレルなど、同価格帯でも外国メーカーの方がデザインは洗練されていて、格好は良い。しかし、命に関わる道具なので見てくれよりも日本人の評価を優先した。一年前の期間限定型落ちモデルで、何度か試し履きされた形跡はあるものの商品の状態は良く、一万円弱で買えたため良い買い物ができたと満足していた。しかし、どうやら靴のサイズを間違えたようだ。

厚手の登山用の靴下を履くため、普段履いているスニーカーよりも、一つ大きいサイズを選んだ。しかし届いた現物は予想よりも二回りほど大きく、ジャストフィットのサイズで問題はなかったように思う。試しに近所を三十分ほど歩いてみたが、つま先にかなりの余裕を感じる。最初は通信販売ではなく、結果的に高い買い物になっても登山用品店で実際に履いてみてサイズを合わせて買った方が賢かった。家でサイズを確認した後、すぐに返品して小さいサイズに交換しても良かったが、交換した靴が今度は小さすぎたら大きい方がまだましだったと後悔する。それから再度、大きいサイズに交換してもらう度胸は私にはない。

六月に登る登山コースは初心者向けで、また日帰りできるため、今回は買った登山靴で挑戦する。万が一を考えて登山靴を買ったのに、肝心な所で怠け癖と貧乏性が出てしまった。靴自体は、質実剛健な作りで縫製も丁寧だ。いずれは富士山に挑戦しようと思うので、不安が残るようであれば、もったいないけど同じ靴の小さいサイズを買い直すつもりだ。コンパス、ヘッドライト、それからレインウェアは買った。地図やモバイルバッテリーなどの細々とした物も通信販売ですぐに手に入る。残る課題は、ファーストエイドキットの自作だ。

改善の余地はある。

そろそろ次の職場を探す準備を始める。派遣先の職場が新体制に変わり、派遣社員を減らすそうだ。謹厳実直に働いた末に派遣切りの憂き目に泣く顛末は癪なので、切られる前に自分から去るつもりだ。職探しの準備は、職務経歴書のアップデートから始める。大抵の派遣会社は、登録する際に求職者が入力した情報をそのまま流用して、職務経歴書を派遣先の面談を受ける際に提出する。名の知れない小さい派遣会社から誰でも知っている大きな派遣会社まで、多数の派遣会社に登録したが、どこも同じだった。面談に同行する派遣会社の営業が職務経歴書を直してくれた試しはない。

年収ウン千万円のハイスペックな求人ならともかく、数十円単位で時給を値踏みされる派遣社員の求人で、手厚い支援を期待してはいない。それでも、もう少し求職者が採用されやすいように職務経歴書を整える、面談で話す内容を事前に打ち合わせして、一度ぐらいはリハーサルをするなど、そういう類いの努力ができないものかと面談を受ける度に思う。同じ派遣先の面談に何度も同行していれば、派遣先の採用基準や押さえるべきポイントは嫌でも把握できるだろう。何十人、何百人の職務経歴書を読んでいれば、よほどアレな人でない限りは、言葉で説明できなくても、その人のセールスポイント、派遣先に推す点は何となく分かると思う。これは不満というよりも、担当する求職者が採用されれば自身の評価にもつながるのに、なぜそれをしないか、それができないのかが不思議なのだ。それとも直感でこいつは行けるな、こいつは駄目だなと判断できるので、無駄な労力は使わないようにしているのだろうか。派遣会社の営業が派遣先の担当者とツーカーの仲で、求職者を連れて行けば必ず採用されるぐらいの信用があれば、また別の話でもあるが。

派遣会社がやらないのであれば、求職者自身でやるしかない。派遣の求人は社員の採用と違い、派遣先はそんなに時間を割かない。年齢と性別以外は、ほぼ第一印象で採用が決まると思っている。なので最初が最後の勝負となる。個人的な経験則から、自分自身が商材となり、それを派遣先に売り込みに行く状況を想像して、戦略を立てている。マーケティングの知識などなくても、見せ方、売り込み方を工夫するだけで、採用される確率は改善される。職務経歴書に書く内容は何度も書き直す度に洗練されるし、面接を受ければ受けるほど面接慣れもする。相手の反応を観察して、それを次に活かすのだ。飲み会と同じで、面談で自分語りをしないように注意が必要だ。商品の開発ストーリーや開発者が実現したかった夢を話しても、スティーブ・ジョブズでない限り、誰も商品を買ってくれない。少しでも求職者に興味を持った派遣先の担当者が知りたい情報は、端的に求職者が職場でどういう役に立つかだ。この辺は本来であればセールスマンたる派遣会社の営業が担う役割だが、自分で自分を売り込むしかない。野心を胸にガレージに籠もっていた、若い頃のジョブスのように。

ゴールデンウィークがあっという間に終わる。

漫然と寝て過ごしていたら、ゴールデンウィークがあっという間に終わってしまった。試験勉強など、生産的に連休を使うつもりは毛頭なく、惜しくはあるが後悔は少ない。コロナ前のゴールデンウィークも、今年と同じように特に何もせずに過ごしていた。ゴールデンウィークは飛行機代が高いため大好きな海外旅行は控え、お金も楽しみもあとに取っておくのだ。同僚や友人と飲み歩いたぐらいだが、今考えると飲み代で飛行機代を賄えた気がする。去年も今年も連休どころか普段の休日すら旅行にも飲みにも行けず、稼いだ金は銀行口座に死蔵されている。たいした額ではないけど、有用な使い道を考えないと働く意欲につながらない。物欲はまるでなし。食欲はあるが安舌のため金はかからず、性欲を満たすにも風俗は面倒臭い。貪欲な睡眠欲を満たす費用はゼロ円だ。

ゴールデンウィーク中は頻繁に悪夢を見た。二度寝、三度寝が当たり前の生活で、それだけ夢を見る機会は多い。夢の中では肉親から友人までがランダムにオールスター天丼さながら登場し、彼らにひたすら謝っていた。移住計画に進展がない焦りと無為のまま老いる不安が、呵責を迫ったのだろうか。何に謝っていたのかは覚えていない。きっと意識に上らせたくない、やましくもあさましい過去が無意識の泥濘に沈んでいるのだ。そういう過去は掘り返さずに沈めたままにしておく方が、精神衛生上は好ましい。移住計画が進んでいない状況は、海外への渡航制限が解除されない限りは変わらない。これは準備を淡々と進めるしかなさそうだ。そうは言っても年は取る。最近、同じ職場で働いていた同年代のおっさんが派遣の契約を更新されず、職場を去って行った。新体制に移行したため、派遣社員を職場から減らすそうで、私も近いうちに上野公園で銀杏を拾う様になるかもしれない。五十代の派遣社員に会った記憶はなく、派遣社員として働けるのは、あと数年だと考えている。前例がなければ作れば良いが、派遣社員の先駆者になる心意気は持っていない。

小説の執筆に夢を乗せながら、もう少し地に足を付けた副業を今から探したい。派遣で働けなくなった時の保険で、いずれは副業から本業に変わる仕事だ。ノマドワークの必要はないし、ローリスクであればローリターンでも問題ない。リスク管理に比重を置き、できる限り安全で実入りの良い仕事を探す。街角に不穏な気配を感じたら三十秒フラットで高飛びしろと、ニールおじさんが言ってた。何か駄目になっても致命傷さえ負わなければ、挽回する余地はある。家賃や人件費などの固定費がかさむ商売は駄目だ。経営するタコ焼き屋で、閉店後にアルバイトの美人留学生にセクハラする夢は、夢のままに留めておこう。あれこれ勘案した結果、副業は情報サイトの運営が有力候補だ。

商材はエロ情報を扱う。確かにエロサイトは凡百と存在するが、その全てが競合サイトになるわけではない。むしろエロサイト連合とも言うべき共存関係にある事実は、張られた相互リンクの数から計り知れる。エロ情報を扱う理由は二つある。一つ目は、性の嗜好が世のニーズと合致さえすれば、それが天職になる。二つ目は、あらゆる局面における性衝動の凄まじい影響力だ。ベータvsVHSのビデオテープ規格競争で、競争を終焉に導いた決定打はアダルトビデオだと言われている。周りを見渡してみると、あの時、彼に金玉さえなければ、と言った本に載らない歴史は数多く存在する。川底を這う潮流のような性衝動に足元をすくわれ、人生を終了した金玉で、玉入れができるぐらいだ。エロで潮流を作るとかエポックメイクしたいとか、自己実現の野望はない。ただエロの流れに乗り、お金を稼ぎたいだけだ。