ノマド探求

二次元移住準備記

台風が直撃した。

夏休みを取って、一週間ほどベトナムに行ってきた。ベトナムへの出発日に台風が直撃したので、出発の前日に羽田空港に行き、空港のベンチで朝まで過ごした。空港で寝るのは三年ぶりで、これぞバックパック旅行の醍醐味という感じで心が弾んだ。困難であるほど目的地に着いた時の感慨もひとしおなのだ。

空港に向かうバスの乗客は私一人で、ぽつねんとバスを待っている間も徐々に雨脚が強くなっていった。成田行きのバスは最終便を待たずに運休になってしまい、唖然としているスーツケースを持った家族連れをよそに、一週間働かなくてもよい開放感と次の仕事が決まった安堵感に浸っていた。一時間ほど待ってから定時に出発したバスに乗り、空港に着くまでの間、のんびりと夏休みの始まりを楽しんだ。

空港には同じように台風による交通機関の影響を考えて翌日まで待機している人や、飛行機が空港に降りたはいいが家路につく手段がなく、ふて寝を決め込んでいる人たちで混雑していた。すでに横になれる場所は取られてしまっていたので、ベンチに座って音楽を聴きながら夜を過ごした。こういう時は日本人で固まった方が、不快な思いをしなくて済む。辺り構わず大声で喚き散らす奴もいないし、食べカスが床に散乱することもない。夜半には風も強くなり、空港にも風が吹き込んできて、やや肌寒く感じたが、子供も年寄りもじっとベンチに座って朝を待っていた。

朝方になると徐々に空港が慌ただしくなり始めた。ゆっくりと音楽を聴いてられなくなったし、ちょうどお腹も空いたので、空港内で軽く朝飯を取ってから出国ロビーに向かった。すでにオンラインでチェックインしていたし、バックパックは機内に持ち込むことにして、早々と出国審査を通って出発ゲート脇のベンチで寝ていた。結局、飛行機は定刻より五時間遅れて出発した。出発を待つ間は暇なので、音楽を聴きながらビールを飲んで時間を潰した。台風は過ぎ去り、晴天が広がっていたが、出発の時間はなかなか決まらず、だんだん後ろにずれる時間の間隔も大きくなっていった。欠航になったところで全額航空券代は返ってくるし、宿は到着初日の安宿しか押さえていないので、たいして懐は痛まない。ベトナムに行きたかったわけでもないし、飛行機が飛ばなかったら、このまま温泉でも行こうかなと考えていた。後ろに控える予定がないことで生まれる心の余裕は、バックパック旅行の強みと言えるだろう。身に危険が及ばない限りは、どんなハプニングもアトラクションの一つなのだ。