ノマド探求

二次元移住準備記

働き始めて二ヶ月が経った。

半年間無職で過ごした後、ニケ月前から再び派遣社員として働き始めている。契約期間の三ヶ月間は安定した収入を確保できるし、新しい職場は奇跡と言って良いほど嫌味な人間がいない。そういう意味では安心して生活できている。しかし、人間は欲張りなもので、次から次へと不満が出てくるものだ。

職場自体には不満はない。給料は前の職場とたいして変わらないけど、通勤時間はかなり短くなったので、むしろ満足している。不満なのは仕事内容にある。システム監視の仕事であることは働く前から分かっていたが、本当にシステム監視だった。何を間抜けなと思うけど、二年間のシステム監視の経験はあるので、そこそこ経験が求められる職場だろうと、少しでも淡い期待を抱いた自分がバカだった。

システム監視の仕事は、ITの勉強をしていることがアホ臭くなるほどITの知識や技術を必要としない。SEとして求人を出している会社もあるが、現場の認識はエンジニアではなくただのオペレーターだし、実際に事務職に近い扱われ方をする。そして警備員と同じように、自分で判断することは禁じられている。警察官に憧れて国家公務員の試験勉強をしながら警備員をしている人を思い浮かべると、その悲哀が分かってもらえると思う。目の前で事件が起きても、110番することしかできることはないのだ。システム監視のオペレーターがSEの真似事をすればどうなるか。それは警備員が警察官のように事件を追った時と同じ顛末が待っている。

というわけで、もう今の仕事を辞めることに決めた。派遣の仕事はノマドチックな仕事に就けるまでのつなぎで、海外移住に失敗した時の保険に過ぎないが、それでも前に進んでいるという充実感は欲しい。勉強している自分を偉いとは思わないけど、仕事の後や休日を勉強に充てている人間が報われるような環境に身を置きたい。

LinuCとは何だ。

LinuCという検定の存在を知ったのは今年の初めだ。三月に最初の試験が実施されたので、認知度はまだ低いと思う。私はLPICの試験に申し込むため、LPI-JapanのWebサイトを訪れて始めてLinuCを知った。LPICを参考に日本市場に最適化したLinuxの検定ということだ。最近LPICレベル2の勉強を始めて、そのことを思い出した。

実施する団体はLPICを実施する団体と同じLPI-Japanだ。一つの団体が二つのLinuxの検定を実施していることになる。他の団体が実施するならまだしも、同じ団体が二つの、しかもほぼ同じような検定を実施する理由が分からないし、きな臭い。日本市場に最適化したLinuxの検定を謳っているが、ITの潮流はアメリカから起こるのだから、日本市場に最適化する利点が受験者には少ない気がする。確かにLPICは良くできた試験とは言えないので、LPICを補完することが目的なら理解ができる。しかし日本市場で需要の大きい技術と知識だけに試験範囲を特化するのであれば、それは日本企業側の短期的な利点にしかならないだろう。Javaが趨勢のこの時代に、汎用機がまだ動いているという理由だけで、COBOLの供給を求めるのと同じような時代錯誤に過ぎない。日本市場に最適化と聞いて私には、クラウドが隆盛し始めた時に、外からの強烈な技術革新に手のひらを返した日本の業界しか思い浮かばなかった。

LPICとLinuCの協賛企業を見ると、どっちの検定が時代の趨勢に乗っているかは一目瞭然だ。Linucの協賛企業はLinuxを使用する日本の会社だ。日本の電機大手が数社協賛しているがどれも時代に乗り遅れ、アメリカのIT企業とは大きく差を開けられた企業ばかりで、Linuxをカスタマイズしている話すら聞いたことがない。一方LPICには、LinuxUnixを独自に発展させ、世界の流通網に乗せた企業が協賛している。この違いはかなり大きいと思う。開発する側は多くの企業の要望を受けてLInuxの開発をするが、使用する側は単に自分たちの要求にあった機能しか使わないし、使えない。開発する側がその機能を新しいバージョンで採用しなければ、古い化石のようなLinuxを使い続けることになる。

事の顛末は、自分たちで検定を作ればLPIに払うロイヤリティを自分の懐に入れられると算段したのではないか。日本の受験者が全体の半分以上を占めているということだし、私のようにゲスの勘ぐりをする人間も多いはずだ。ロイヤリティを払うのが惜しくなりLinuCを作ったのだとしたら、LinuCの受験者数が伸びずにそのうち更新が止まり、LPIからもLPICの供給を止められ、日本に認知度があるLinuxの検定がなくなる未来しか見えない。受験者の利点を考えるのであれば、LPI-JapanはLinuCとLPICの違いを具体的に説明し、日本市場と最適化の定義を明確にすべきだろう。あえて資格商法に引っかからざる得ない受験者への、最低限の礼儀だと思う。

自分の英語を聴き返す。

二週間前ぐらい前からオンライン英会話を始めた。毎回Skypeの会話を録音ソフトで録音し、それを聴き返して復習をしている。復習する目的は三つある。まず聴き取れなかった講師の英語を聴き取れるまで聴くことでリスニングの能力を鍛えること。それから自分の発音を確認して発音を直すこと。そして、咄嗟に言葉に出なかった単語と表現を調べ、発信の瞬発力を鍛えることだ。

この録音した自分の英語を聴き返す作業が死ぬほどつらい。レッスン中に話した自分の英語は死にたくなるほどのインパクトがある。インディアンコントを彷彿とさせる拙いカタカナ英語だったら、まだ我慢できる。しかし、悲しいことにあのレインマンだ。私はwellとかI seeとか言っているつもりなのだが、最初に聞こえてくるのはアアアとかンーッとか奇声とも呼気とも分からない音声だ。それから、しばらく不気味な沈黙が続いた後、良い言い方をすれば感情が先走って適切な言葉が出てこない、ピュアな英語を唐突に話し始める。ヒゲを剃ってる途中で、鏡に映る生気の失せたおっさんの顔に意識が向き、そのまま喉を掻き切りたくなる衝動の百倍ぐらい強い衝動に毎晩耐えなくてはいけないのだ。

この作業は脳にも影響を与えるようで、時間の感覚がおかしくなってくる。TOEIC S&Wテストを勉強していた時も参考書の問題に対する解答を録音していた。この時は気を失いかけたが、今回は意識を失いタイムスリップしたかのように、時間の感覚に違和感が生じるのだ。時をかける少女ぐらいに甘美なミステリアスならまだ良いが、12モンキーズに近い。恐らく脳みその時間の感覚を制御する部位が、自分の英語を聴くことで損傷を受けるか書き換えられてしまうのではないだろうか。そのため、自分の英語を聴く作業は三分が限度だ。それ以上聴くと何か未知の領域に足を踏み入れてしまうか、サイキックパワーが備わりそうで怖い。そのぐらい脳みそに負担がかかるので、毎日クタクタになっている。

ちなみにSkypeの会話を録音するソフトはcallnoteというVoIPを録音する専用ソフトを使っている。最初はaudacityというソフトを使っていた。しかし、自分の音声は明瞭に拾えるのが、どうしても講師の話す音声が上手く拾えず小さくなってしまうのだ。ミキサーソフトを入れて調整すれば上手く拾えるらしいのだが、面倒臭いので専用のcallnoteに切り替えた。callnoteは月に10回までの録音が無料でき、年に9.95ドル払えば月に30回まで、39.95ドル払うと無制限で録音できる。私は9.95ドル払って月に30回まで録音できるライセンスを買った。可能な限り毎日レッスンは受けるつもりだし、実際にレッスンを始めてから二週間経つが、レッスンを休んだのは一日だけだ。この調子でレッスンを続けていく予定だが、もしかしたら自我が崩壊し精神病院行きになる可能性もある。