ノマド探求

二次元移住準備記

実務経験モンタージュ。

今の職場は、早ければ再来月で契約終了となる。長くても年内で辞める予定だ。そこで次の仕事探しのために、職務経歴書を更新する準備を始める。一昨年、今の職場で監視から運用の仕事に移る時、監視業務の内容を追記して形だけ職務経歴書を更新した。次は職場だけでなく、派遣元も変わる可能性がある。全面的に職務経歴書を書き直して、仕事探しに備えたい。困ったことに不惑の年に突入してから数年を経ても、IT業界での経験は七年ほどだ。大学新卒でIT業界で働き始めたら、三十手前で得られる経験値でしかない。学校を卒業してから、ずっとアルバイトをしてお金を稼いできた。

アルバイトで経験した業種は様々だ。その中でもコピー屋で一番長く働いた。コピー屋は写真屋と同時代に廃れた仕事で、コピー機でえっちらおっちらとコピーをひたすら繰り返し、書類を複製する。最近は紙原稿からではなく、pdfなどのデータからコピー機で出力する仕事がほとんどで、プリントセンターとか出力センターとかに呼称が変わっている。私が働いていた頃はまだ、普通の書類サイズからA1やB1サイズの大きな図面まで、白黒にカラー、大判コピー機まで動員して書類や図面をスキャナーで読み取り、複製をしていた。ステプラーでガチガチに留められた書類をバラしたり、ファイルに収まらない図面を折り紙のように折って同一の書類サイズにまとめたりもする。コピーだってただコピーをすれば良いわけではない。コピーをする時に原稿の影が出ないように工夫をし、文字の濃淡を変えたり位置を調整して読みやすくする。それこそコピ芸職人がどの店舗にもいて、厳しく指導されたものだ。

そんなコピ芸もIT業界では全く役に立たず、職務経歴書には付録程度にしか載せていない。職務経歴書に書く内容は、書き直す度にいつも悩む。個人的な経験だと、どの派遣会社もA4一枚に派遣社員の職務経歴をまとめ、職場見学会という実質派遣法に抵触する派遣先の面接を受ける際に、同行する派遣会社の営業が面接担当者に手渡す。ズラズラと今までの経歴を律儀に書いても、たかが派遣社員一人のために派遣元の意志決定者が読むはずはない。そこで伝えたい実務経験を一つの職場につき三つ程度に絞る。職場の数も直近で経験した職場を三つ程度挙げれば十分だ。私は職務経歴を書く前に、まず職場で経験した実務を思い付く限り紙に書き出す。そこから希望する業種に応じて評価される実務経験を抜粋し、今までの職歴がその面接に至る必然の行程であったかのようなストーリーに沿って編纂する。嘘は避けた方が無難だ。派遣先の面接担当者は数多く面接を経験した中で、虚勢を張ったハリボテの股間を見破る、百戦錬磨の嗅覚を研ぎ澄ましている。

嘘をつく代わりに、映像のカットをつなぎ合わせてストーリーを作るモンタージュ理論を応用し、自分の職歴を演出をする。一例を挙げてみよう。朝寝ぼけた顔で中年フリーター氏は、安アパートの玄関を出る。満員電車に揺られる中年フリーター氏、それからドラマのロケで使われそうな一流企業が入居する摩天楼、最後に安アパートで夕飯を食べる中年フリーター氏のカットをつなげる。するとあら不思議、あたかも中年フリーター氏がその一流企業で働く社員であるかのようだ。アルバイト先で客に頭を下げ、店長にこき使われるカットは挿入しなくても、何も嘘はついていない。聞かれなかったから、答えなかっただけだ。聞かれれば、アルバイト先の最寄り駅に屹立する豪奢なオフィスビルで一生に一度くらいは働き、合コンで自慢したかった願望を表現しただけですと、しらを切ればいい。

しかし、ここまであからさまだと盛ったと指摘され、採用されてもすぐに実力が露顕し、陰険な虐めに遭うだろう。なので、ポジティブな印象を持たれるようにモンタージュする。先の例だとアルバイト先で必死に働くカットと、最後に摩天楼を見上げる中年フリーター氏のカットを挿入する。するとどうだ、いつか一流企業で働くことを夢見て、アルバイトをしながら必死に勉強をする中年フリーター氏の姿が思い浮かばないだろうか。必要なのは華々しい経歴ではない。可能性のある末広がりな経歴だ。