ノマド探求

二次元移住準備記

プチノマド。

茶店でパソコンを広げて仕事をしたり、海外に移住して現地採用で働いたりしなくても、手っ取り早く働く職場を変えてしまえば、それもノマドではないかと思った。ニートと同じく、ノマドワーカーの定義自体は人によって違う。その言葉が使われる文脈によっても変わってくる。取り敢えずノマドを、日本社会が求める社会性の希釈を目的とした生活環境改善キャンペーンとでもしておこう。喫茶店で仕事がしたいわけではない。喫茶店を仕事場にできるような個人裁量の高い仕事に就いて、堅苦しい人間関係や意味のない慣習から逃げるのだ。

ノマドに籠められた想いは過激だ。就労環境を含め、生き方全てをマルっと変える可能性さえも追求させる。ただ、水と安全はタダと謳われた日本の微温い環境で育つと、そこまで追い詰められることは少ない。どちらかと言えば、安定を約束する社会に疲れた末、仕事を辞めて世界一周旅行に出るぐらいの覚悟しか持てない人が多いだろう。ノマドワーカーか専業主婦、それともヒッピーか。社会から適当な距離を置きつつ、そこから完全に脱却しないところに、甘い覚悟が透けて見える。巧妙な自己欺瞞のカラクリを弄する凡百の自己啓発書が刊行され、実際に多くの人を惹きつけているのが、その証拠だ。カラクリの胆は、金を稼ぐ行為から金の臭いを消し、目的を自己実現にすり替えることだ。ノマドワーカーを称する人のブログに書かれた後ろ向きの言い訳が、ネットワークビジネス新興宗教の謳い文句を彷彿とさせるのも偶然ではない。ノマドを成功させるコツは、敢えて金の臭いを消さないことだと思う。

今の生活の延長でどうやってノマドを実現させるのか、ようやく答えを導き出せそうな気がする。派遣で働く職場を転々として、就労環境を変えていけばいい。ただ、職能と実務経験を次の職場に持ち込せるよう、職種を変えるのではなく職場だけを変える。私生活はそのままに社会性を希釈する、お手軽なプチノマドだ。

ベトナムで何をするか。

夏休みで一週間ベトナムに行く。ベトナムはまだ行ったことがなく、一度行ってみなくてはと思っていた。ベトナムの文化と風土に対する純然たる興味は前々からあり、タイに旅行したついでにベトナムまで足を延ばそうと思ったことは、過去に幾度となくある。しかし、途中で紙幣が違うという理由で面倒臭くなり、結局ベトナムに行くことはなかった。

今年の夏休みにベトナムに行く動機の一つは、海外移住先候補の現地調査をしてみようと思ったからだ。昨年、前の仕事を辞めた後に、しばらく東南アジアでの現地採用の仕事を探していた。ネットで見つけた求人に日本から応募していただけだが、移住先の条件を考える良い機会になった。現地採用の仕事が比較的見つけやすいベトナムは、海外移住先の最有力候補だった。初めは土地勘のあるタイの求人を探していた。しかし、製造業の営業職の求人が多く、IT関連で経験の浅い求職者でも応募できる求人は少なかった。ベトナムとマレーシアは、IT関連の仕事が他のASEAN諸国に比べて潤沢にあり、未経験者や経験の浅い求職者でも応募できる求人も多い。マレーシアが候補先から外れた理由だが、単にイスラム教徒が多いので恐らく酒飲みの文化が発達していないだろうと考えたからだ。それならアオザイを着た色っぽい姉ちゃんもいるし、ビールも料理も美味しいベトナムがいいなと思っただけだ。

最近、海外移住の意欲がまた盛り返してきた。現地採用で働くのであれば、自分の職能と職歴を考慮した上で良い給料と待遇は求めたい。また、それとは別に文化と風土が合うことは、絶対に外せない条件になる。旅行を機に、ベトナムで働きながら日常生活を送ることができるか、肌で確かめようと思う。もちろん、きちんと観光もするけど。

今年の夏休みはベトナムに行く。

九月に一週間の夏休みを取るので、ベトナムに行くことにした。当初の計画では、行き慣れて土地勘のあるタイでのんびりしようと考えていたが、色々と逡巡した結果、タイ旅行は断念した。

タイに行くのであれば、行きは羽田から深夜便でバンコクに飛び、帰りはバンコクから昼過ぎの便で羽田に戻るのが理想だ。夏休み前日は夜勤明けで、昼前には家に帰ることができる。少し仮眠を取ってから夕方遅くに家を出ても、羽田空港で出発前のゴールデンタイムを堪能できるのだ。この仕事が終わった開放感と出発前の高揚感に包まれて過すひと時は旅行の醍醐味の一つだ。休み明けは夜勤なので、夏休み最終日の夜遅くに家に帰ったとしても、翌日の昼過ぎまでゆっくりと休息を取れる。

候補としてはスターアライアンスに加盟するANAタイ国際航空の二択だ。ANAで私の理想にぴったりな便を見つけたが、私の夏休みの日程では航空券の割引率が低く、金銭面で条件に合わなかった。仕事を辞める前なので、夏休みの予算はできる限り抑えて、無職生活に突入した時の貯えを増やしておきたいのだ。タイ国際航空は手頃なお値段だったが、バンコク夜着早朝発の便しかなかった。スワンナプームのベンチで横になりゴロゴロと夜が明けを待つのは、この歳になるとホームレス入門みたいな感じで侘くなる。

JALスターアライアンスに加盟していないのでマイルが貯まらず、LCCの利用を考えればグッと選択肢は増えたが、さすがに六時間もコッチコッチの座席では尻がもたない。二十代から切れ痔を患い、感染傷に罹る危険性のある地域に渡航する時は、アナルへのダメージは最小限に抑えたいのだ。タイで一般的なホースを使う手動ウオシュレットは高圧洗浄機並みに水圧が強過ぎて内蔵まで洗う勢いだし、地方ではまだ紙の代わりに手桶の水で尻を洗う便所も多い。そのため、ただでさえ旅行中は衛生面で危険な状態にアナルが暴露される。最初から手負いの状態で現地に着くのは、危機管理の観点から避けたい。そんなわけで、今回はタイ旅行を見送ることにした。