ノマド探求

二次元移住準備記

シーシャに嵌まる。

去年の夏休みに初めてシーシャを吸ってから、月に一、二回のペースでシーシャバーに通っている。吸い始めた切っ掛けは、単に好奇心だ。海外旅行に行けないストレスを発散させるため、日本の中で異国情緒を味わえる場所を探していたら、シーシャバーに辿り着いた。シーシャを説明する際にChillという言葉が頻繁に使われるように、癒やしを求める身としても興味をそそられた。ただ、シーシャーバーには以前からある種の先入観を持っていたし、有名店から場末の店まで、そこそこ行ってみた今でも、それは残っている。

シーシャの発祥は、宗教の戒律でお酒を飲めない人たちの娯楽らしい。仕事帰りにその辺で一服行こうぜが、日本であればその辺で一杯行こうぜになるのだろう。シーシャは水タバコと呼ばれるように、店によっては身分証の提示を求められる大人の嗜好品だ。お酒が好きで、その美味さが分かる人であれば、普通はバーや飲み屋に行く。若い日本人の間ではシーシャが流行っているが、私の周りで楽しむ人はまれだ。バーを学内派閥のジョックスに例えるなら、良く言ってフリークス、正直ゴスに近い立ち位置だ。陽キャに憧れる陰キャが、暗い沼の底で互いにマウントを取るための通過儀礼にも使われ、あるシーシャバーでは、沼ったプレデターが互いにオカマパンチを繰り出し、死闘を繰り広げる癒やしの場とはほど遠い不毛な地獄絵図に放り込まれた。

もともと気管支が弱く、臭いも嫌いでタバコを吸った経験はない。葉巻も煙で喉が焼かれ、体に合わなかった。煙に抵抗感を拭えないが、匂いには許容範囲は広い。中華料理屋から流れる八角の香りを嗅げば食欲が湧くし、満員電車でOLの髪から漂うシャンプーの芳香に性欲を刺激される。駅前の無印良品に行くと、展示品のアロマディフューザーから湧く水蒸気を浴び、無料でチルアウトしている。その土地特有の土着の匂いも嫌いではない。旅行に行った時と旅行から帰ってきた時に空港で感じる、その国独特の匂いに旅情や郷愁が掻き立てられる。

仕事でも私生活でも充実感を得られず、索漠とした日常に彩りを与える生の臨場感を欲して久しい。好奇心を満たし、かつ心の安寧も得られる機会、場所はいくつあっても歓迎だ。オンラインゲームでは得られない、現実がそこにある。時々、無性に旅行に行きたくなるのも、この現実の刺激を求めているからなのだ。家でシーシャを吸っても、日常の一枠に過ぎず、このハレの場は体感できない。特に完全テレワークが続く今は、時間的にも空間的にも日常生活が家を境界としている。だから部屋を出て店に足を運び、煙を吸うのかもしれない。