ノマド探求

二次元移住準備記

十二月末まで契約を延長した。

派遣の契約が、九月末で更新を迎える。最初は契約を更新せずに職場を変えるつもりだったが、十二月末まで契約を延長した。派遣会社の営業に契約を更新しない意向を伝えた後、派遣先の上長から契約の延長を打診された。延長を要請した理由は、同じ職場で働く派遣社員の一人が、九月末で職場を離れるためだ。派遣社員が二人同時に職場を離れる事例は、山ほどある。ただ半年ほど前に体制を刷新し、チームを細かく分けてしまった。ただでさえ人が少ないのに、さらに二人同時にいなくなると苦しい内部事情があった。その同僚は、半年ぐらい前から契約を更新しない意向を申し入れており、残留は難しい。社員ではないので、別に気を揉む必要もないが、今回は素直に契約を更新した。

正直、契約を更新しても、あまりメリットはない。単価、つまり時給は働き始めてから一度も上がらず、未だに試用期間中のお試し価格のままだ。働き始めた当初は、運用の仕事が未経験だったため、仕事を覚えて一人前になったら、適正価格まで上げる約束だった。それが、予算がないという理由で、ずっと反故にされ続けたまま二年が過ぎてしまった。派遣社員を買い叩けば、その分、会社は潤う奴隷市場の原理は理解している。しかし、約束は約束だ。口約束だとしても、守る道義はある。約束が反故にされた場合、奴隷に残された道は一つしかない。他の単価の良い職場に移るだけだ。派遣法など、単に奴隷商人が自分を身綺麗に糊塗する方便に過ぎない。この二年間、自分の市場価値を上げるための努力はしてきた。ちなみに来期の契約も、単価は試用期間価格のまま据え置きだ。

恩を売っておけば、何かしらのリターンは期待できる。次の職場が今の職場に関係があった場合、チョロい奴だから、適当に遇えと言われるかもしれないが、悪いようには言われないだろう。あいつはいい奴だと口添えしてくれる淡い期待もある。派遣会社の営業は、他の部署や関連の会社の案件も多く担当している。そのため、必然的に求人案件に横のつながりが生まれる。無下に打診を断れば、恨みを買う恐れもある。奴隷が奴隷市場の価格を操作できない構造と同じように、派遣社員は気前の良いご主人様に競りで落とされる僥倖を待つしかない。その時に、ご主人様と面識のある奴隷商人の一声は、資格や検定よりも大きい。

今の就業環境が嫌で、契約を更新しないわけではない。嫌味な人が全くいない職場で、居心地はとても良い。単に仕事と環境に飽き、職場を選ぶルールに則って、そろそろ仕事を変えようと思ったのだ。だから三ヶ月ぐらい今の職場で働き続けても、それほど抵抗はない。理想の職場に巡り合っても、そこで死ぬまで働き続けることはできない。むしろ、理想の職場ほどすぐなくなる。それに理想の職場だと思って働き始めたら、酷薄な現実を痛感する羽目になるかもしれない。だから職場を選ぶ際は、もらえるお金を最優先事項にしている。居心地が良ければラッキーぐらいに考えていた方が、失望せずに済む。